
「にゃはははは!」
タロは玄関で大きな口を開けて笑っていた。いや、本当に笑っているわけではない。ただ、何か面白いことがあったような顔をしている。
「タロ、どうしたの?」と飼い主が声をかける。
タロはしっぽをピンと立てたまま、何かを訴えるように前足を踏み鳴らす。
——その時、玄関のドアの隙間から、風がそっと入り込んできた。タロは一瞬ピクリと耳を動かし、さっと振り向いた。
「……そこに、いる?」
しかし、飼い主には何も見えない。ただ、タロはしばらくドアの隙間を見つめた後、また「にゃはは!」と鳴き、どこかへ駆けて行った。
タロだけが見たもの、それは誰にもわからない。