庭先に座ると、いつもと違う世界が広がる。ヴィクトリアン様式のテラスハウスの前、私の小さな体は、しっかりと地面に根を下ろしている。周囲の音が耳に届く。鳥たちのさえずり、風に揺れる木の葉、そして遠くから聞こえる子供たちの笑い声。どれもが心地よいメロディーのようで、私はこの瞬間に完全に身を委ねる。
私の毛色は、黒と白が織りなす幾何学模様のよう。そこにいるだけで、まるでこの家の装飾の一部になったような気分だ。時折、通り過ぎる人々が私に視線を向け、微笑む。彼らの目に映る私は、ただの猫ではなく、何かしらの物語を秘めた存在なのだろう。
しかし、ふとした瞬間、私は一瞬の不安に包まれる。人々の笑顔の裏に何が隠れているのか、彼らの心の中にはどんな思いが渦巻いているのか。それを知ることはできない。私はただ、彼らの喜びを受け止める存在でありたい。
そして、日が傾き、空がオレンジ色に染まり始めると、私は静かに目を閉じる。記憶の中に、優しい手のぬくもりや、撫でられる感触が蘇る。もしかしたら、私にはかつての家族がいたのかもしれない。おそらく、彼らも今どこかで私を思ってくれているに違いない。そんな思いを胸に、私はこの美しい景色を背に、夜の訪れを待つ。