ひそやかな瞬間

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僕は薄曇りの午後、灰色のコンクリートの床に横たわっている。体をおおうオレンジと白の毛が、冷たい地面の上で少しだけ温もりを感じさせる。ここは僕の特等席、世界の中心。耳をそばだてると、周囲の小さな音が聞こえてくる。かすかな風の音、小鳥のさえずり、そして遠くから聞こえる人々の笑い声。

この場所には、いつも何かしらの出来事がある。今日は小さな女の子がやってきた。彼女は笑顔を振りまきながら、僕の近くで遊び始めた。好奇心に満ちた眼差しで僕を見つめ、手を差し伸べる。その瞬間、心が温かくなった。彼女の手のひらが僕の毛に触れると、まるで太陽の光が降り注ぐような気分になった。

でも、時間は残酷だ。女の子は母親の呼び声に反応し、急いで立ち去ってしまった。彼女の笑顔と優しさがどこかへ消えていくのを、僕はただ見送るしかなかった。寂しさが心の奥に残り、冷たく感じる。

それでも、僕はここにいる。誰かがまた訪れてくれることを期待して、目を閉じて夢を見始める。世界の喧騒が遠のいていくと、心の中で小さな希望の芽が育つ。次の訪問者の笑顔が、また僕を温めてくれるだろう。そう信じて、僕はこの瞬間を大切に思うのだ。

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